| 「なぎさ!最近、姿を見ないけど、いったいどこに行っているんだ!?」 |
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| 私が大学の教室に入ってすぐ声をかけてきたのは、ゼミで一緒の健くんです。健くんとは小学校時代からの幼馴染で、中、高、大学と同じ学校に進みました。いまは陸上部のエースとして活躍しています。ちょっとちゃらちゃらした感じだけど、根はまじめで、この大学では私のことを一番知っている人かもね。 |
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| 「何って・・・私は旅行をしていただけよ」 |
| 「旅行?」 |
| 「秋田県の男鹿(おが)というところにでかけていたの」 |
| 「男鹿?どこだよそこは?!まさかその街におまえが好きな奴がいるんじゃ・・・」 |
| そんな話をしていると、 |
| 「なぎさちゃん!!それは本当ですか?!」 |
| と誠一くんが割り込んできました。誠一くんはゼミのなかでもトップクラスの秀才です。いつだったか、私が歴史や文化に興味があるって話をしたら、それ以来声をかけてくるようになったんだけど・・・。 |
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| 「誠一!!なぎさに何の用だっ!!!」 |
| 「僕はなぎさちゃんと話がしたいだけです」 |
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| どうも、2人とも私に気があるみたいで・・・ゼミのなかではいつもこんなふうにバトルを繰り広げているんです。私はというと、今はあんまり恋愛に興味がなくて、いつも横でみているだけなんだけど。私は2人に、男鹿はとってもいいところで、菅江真澄という人が愛した土地で、山本社長や成田さんとか、面白い人もいっぱいいて・・・と説明しました。すると、健くんなんか「菅江真澄?!!山本社長?!成田さん?!誰だよそいつらは?!!」と過剰に反応してきます。健くんも誠一くんも冷静さを失っているみたいで、全然私の話を理解してくれません。もう!2人とも最後までしっかり聞いてよ!! |
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| 「なぎさが2回も行って、しかもいろんな人に会っている!黙っていられねぇ!」 |
| 「男鹿というところに行って確かめてみなければいけませんね」 |
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| というわけで、私は2人と一緒に3回目の男鹿旅行にでかけることになりました。やれやれ・・・でもこれをきっかけに2人が男鹿の魅力に目覚めてくれればうれしいな。 |
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| また、成田さんに男鹿を案内してもらうことになりました。男鹿駅で待っていてくれた成田さんをみて、健くんは、「なんだ・ ・・成田さんって普通のオジサンじゃないか」とつぶやきました。(だから言ったでしょ!ちゃんと話を聞いてよ!!) |
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| 私たちのやり取りを聞いていた成田さんが2人に聞きました。 |
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| 「おめだは、なして、男鹿さ来ると思ったーじ」 |
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| 健くんが熱っぽく「そりゃあ、なぎさが2回も出かけている街だからな。どんなところかこの目で見たくなったんだ」と言うと誠一くんも「僕も健と同じです。愛するなぎさちゃんが訪れている街のことを知りたくてね」と話しました。それにしても堂々と人前でこんな恥ずかしいセリフを吐けるこの人たち、ある意味すごいよね・・・。 |
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| すると、成田さんは何やら思いついたようで、ニヤリと笑ってつぶやきました。 |
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| 「おめだは、女ん子をとりばりしてらじが、こごは、男として勝負してみるが?」 |
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| え・・・?!勝負?!何それ・・・!!?聞いていないよ?!!あわわわ・・・けれども、私があわてている間に、話がどんどん盛り上がってしまいました。 |
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| 「もちろんだ!!なぎさをゲットするためなら何でもしてやらあ!」 |
| 「僕だって負けませんよ」 |
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| 2人は本気のようです。男鹿駅前で、2人のライバル心は燃え盛っています。成田さんは思いを感じ取ったのか、こう言い |
| ました。 |
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| 「熱い奴だな。おいだばすいう若いのが好きだ。勝負するんだばちょうどいい場所があるがら、ちできてみれ!」 |
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| 男鹿駅から車で30分ほど。成田さんが案内してくれたのは、男鹿の門前(もんぜん)という場所にある赤神神社(あかがみじんじゃ)です。この神社はなまはげ伝説の発祥の地とも言われているんだとか。一夜で鬼が石を積んだという999段の石段があって、上り切ったところには5つのお堂がならぶ五社堂(ごしゃどう)が建っているのだそうです。昔は宿坊が何十軒も並ぶほど栄えていたらしく、巡礼に訪れる人が絶えなかったといいます。あの菅江真澄も訪れて記録に残していると、成田さんは教えてくれました。 |
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| 山の麓に車を停めて参道を見上げると、山の上まで荒々しい石段が続き、人が積んだとは思えません。鬼が積んだという言い伝えに納得してしまうほどです。 |
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| 「この石段を速く上り切った奴が、なぎさちゃんを嫁っこにできる・・・というのは、なんとだべ?!」と成田さんが話しました |
| え・・・?!嫁っこ、ということは結婚?!! |
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| 「その話、乗ったぜ!!」 |
| 「望むところです!!」 |
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| ちょっ・・・!!私はまだ2人と結婚するなんて決めてないんだけど・・・?!なんで勝手に話が進んじゃうの?!!というか2人とも・・・本当に結婚する気あるの?!誠一くんなんか、石段を上るなんて苦手そうなんだけど、大丈夫かなあ? |
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| 「ふふふ・・・誠一、これはどう考えても俺の勝ちだろ・・・!!」 |
| 「甘いですね。僕は歴史研究家の一環として、羽黒山の石段とか、紀伊山地の霊場とかそういう場所を何度も上っている |
| んです」 |
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| 2人の背後にメラメラと炎が燃えている様子が見えます。 |
| 私は、ゴールを見届けるために、前もって上で待っていることにしました。石段が不規則に積まれていて危険なところもあります。こんなところを駆け上がってこれるのかな・・・? |
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| 「それでは位置について・・・さん、にー、いち、行げ!!」 |
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| 成田さんが号令をかけました。耳を澄ませていると、駆け上がってくる音がします。あ!健くんが石段につまづいて豪快に転んだようです。次は誠一くんも。どうして、私のためにここまでするの・・・?とびっくりしていると、2人の姿が見えてきました。わあ!2人とも、差がほとんどないよ?!! |
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| 「なぎさああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」 |
| 「なぎさちゃあああああああああああああああああああああん!!!!!!!」 |
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| と、叫びながら2人は私のもとに飛び込んできて、同時にゴール!! |
| すごい・・・健くんと誠一くんの情熱がすごく伝わってきました。今までは恋愛感情とか考えないでただの友達として見ていたけど、今日の姿を見て、男らしく見えた気がします。 |
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| しばらくすると、成田さんが拍手をしながら上がってきました。 |
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| 「見事だな。地元の人間でも、その速さで上がってこれる人はいねえよ。今日の勝負は引き分けだ。おめだ、なかなかやるねが」 |
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| 戦いを終えた2人は満足げでした。 |
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| 「なぎさは渡さねえからな・・・」 |
| 「僕もです・・・」 |
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| さすがに疲れを隠せないようです。そのまま五社堂の前の草むらで、寝ころんでしまいました。もうしっかりしてよ!! 上がってきたのはいいけど、これから下りなきゃいけないんだから!! |
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| 今日もまた男鹿に泊まりました。2人の対決は明日も続くようです。成田さんがまた次のプランを考えてくれているようで、明日はどんなことが起きるのでしょうか。 |
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| (つづく) |